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淀み育ち

2013.08.31(Sat)

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夜になると手が震えるの、と彼女はよく嘘をつく。手が震えるだけではない。私今息が苦しい、私あなたのことが好きなの。とかなんとかまあ色々な嘘をつく。初めてあなたのことが好きなのと言われた時は舞い上がったさ、僕も男だからね。これからどんな幸せが広がっていくのかと、その晩は眠れなかったよ。それがなぜ嘘だとわかったのか。それは彼女が有名人だったからだ。いつも嘘をついているらしい。だから彼女の本当を皆知らないのだ。怖目な格好をした男が彼女に声をかけても、彼女は平気で嘘をつく。何度か引っ叩かれたり、傷付けられたことがあるらしい。彼女がなぜ嘘をつくのか、僕はどうでもいいが、彼女のそばにいると飽きないし、友達も増えるのでいつも彼女の後ろを歩いている。それを彼女は疎んでいるようだが、口で言ってこないのでスルーしている。


ある日彼女が風邪をひいたという噂を聞いた。彼女はよく風邪を引く。しかもとびきりひどいやつ。それはお腹の風邪らしく、上から下からナイアガラの滝なのだそうだ。昨日今日と彼女を見てないのはそのせいか。僕はポカリスエットと、多分吐瀉物に変わるだろうゼリーを持って彼女の家へ出掛けた。1人暮らしのかのじょの家は小綺麗なマンションだ。ご親切にエレベーターまでついている。僕は5階のスイッチを押して、彼女の吐瀉物にまみれているだろう部屋へ向かった。
ピンポン、と鳴ってしばらくしてドアごしにおぅえっと嗚咽ご聞こえてきたと思ったら、すぐにドアがあいた。

「大丈夫じゃないね」

僕がそう言うと、彼女は口が開けないのかゆっくりと頷いた。

「入ってもいい?」

と僕が聞くよりはやく、彼女はトイレへ駆け込んでいった。
もう出すものもないだろうに、僕はそっと彼女の背をさする。

「ねえいつやめられるの?」

彼女は反応しない。

「嘘つくの辛くてこんなふうになっちゃうんでしょ?」

彼女の背がぴくりと動いた。僕は続ける。

「嘘に大きいも小さいもないんだよ。嘘をつくたびに胸が苦しくなるんでしょ?」

「あの日あんたにあんなこというんじゃなかった」

はじめて口を開いたと思ったらこんなことか。すごい目つきで睨んでるけどこれも嘘なんだろう。うっうっおえっうっうっ、と吐きながら泣いてる。

「聞き分けないねぇ、吐いちゃうほど泣いちゃってるのに」

僕がそう言うと、彼女は大きな声で泣き出した。吠えてる犬のようだ。

何ヶ月に一回か訪れるこの症状に毎回付き合ってる僕のこと、いいかげん好きだって言ってくれないかな。
そんなことを思いながら、吐瀉物と涙と色んなものでぐちゃぐちゃな彼女の背をさすり続けるのだった。
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辟易

2013.08.29(Thu)

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ってどんな意味なんだろう。って午前5時に電話してくるような彼女とは別れて正解だよ~~~とか言う女の赤い爪を剥がしたい衝動に駆られた午前3時。僕は別にあの娘が嫌いじゃなかったし、朝方に辞書代わりに使われることも嫌ではなかった。少なくともお前とこんな時間まで愛せないピロートークするよりは楽しかった。
明日9時半起きだから寝るよ、と言って目を閉じた僕に女は何か言っているがもう雑音は届かない。徹底してるなと自分でも思う。昨日まで好きだと思っていた相手なのに、時折こういう気持ちになる。そういや、あの娘にはこんな気持ちにならなかったなと思い出した。走馬燈のようにあの頃を思い出しながら、それが段々と夢になっていくのを追う。二年前の梅雨に友達のつてで出会って、映画見て、カラオケ行って、帰りたくないとか言うからホテル行くかなとか思ってたら、満喫入りたいとか言うからアブノーマルな娘だと思ったんだっけな。そしたら普通に別々の部屋とってずっと漫画読みっぱなしでやんのな。本当にこいつ女かと疑ったわ。まあ俺が男だと思われてなかっただけなんだろうけど。危なっかしいとこがあるから、付き合ってからはよく叱ったもんだ。俺が寝てる間に布団からするっと抜け出して夜中に散歩するし。思えばあれは付き合うというよりも世話焼いてた感じだったな。拾った猫にしつけするみたいな。なんで別れたんだっけか。そうだ。あの娘に聞かれたんだ。私のこと本当に好きですか?って。この世の終わりみたいに泣くから、ちょっと考えさせてって言って帰したんだったなあ。懐かしい。一週間考えて、俺の答えは好きだけど好きじゃないというところに収まった。ラブじゃなくてライクなんだろうって。付き合う前から思っていたことだった。それが変わらなかっただけだった。ラブじゃないのは何でなのかって考えたさ。でもあの娘との未来を俺は想像出来なかったんだ。残念なことに。猫と人間は一緒になれないではないか。そういうことだ。とかなんとか自分に言い訳をしたが、正直自信がなかった。猫みたいな気まぐれでおっとりした中に、あの娘は恐ろしいものを抱えていた。それが家庭環境なのか、彼女自身の問題なのか見当もつかなかったが、俺にそれを受け止めて行けるような器はなかった。猫だと思って育ててたらヒョウでしたーみたいなことになったら恐ろしいだろ。









ピピピ、と目覚ましが鳴った。が、となりの女は目を覚ます気配がない。とりあえず自分だけ起きて時間を確認する9時半にセットしたはずが、なぜか5時半になっていた。早起きしすぎた。セットを間違えたのだろうとまたセットをし直して今度はソファに移って目を閉じる。でもせっかく起きたのだから、何かをしたい。少し身じろぎをして、携帯の画面を動かす。半年前に連絡をとったきりの、今の夢で会ったあの娘の番号に躊躇いなく電話をかけた。ワンコール、ツーコール、ガチャ、意外と早くに電話をとったようだ。

もしもしぃ

いつもより低めの声、不機嫌そうで笑える。

辟易ってどんな意味なんだろう。

僕がそういうと、彼女は

今度国語辞典買ってあげるよ。

と言ったので、

もっかい付き合わない?

と僕が言うと、

相変わらずのばかだなあ、さとしさんは

と不機嫌な声でいひひと笑ったのだった。

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おしつける

2013.08.15(Thu)

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午前3時、眠くない。けれど寝なくてはならない。私はベッドでうつ伏せになり、両手両足を伸ばした。
ほどよいマットレスの硬さ、身体の筋が伸びていく感覚。ふっと息をつくと身体中の力が抜けて自然と手が開く。
なぜ眠れないのだろう。考えるのがよくないと聞いたので考えないようにした。他の心配ごとを考えてしまうので、結局意味がない。次は仰向けになって、身体を縮こませる。何秒間か止まったあとに、ゆっくりと身体をひらく。この脱力感がとてもいい。気持ちよく一日を終わらせるために大事な動作だ。
ふぅ、とまた別の意味で息を吐いてまたうつ伏せになる。今度はマットレスに耳を押し当てる。
目をつむり、そのまま私は意識を失った。




ぽろん、ぽろん

聴き覚えのある音だ。なんの音だろう。

ぽろん、ぽろろろん

跳ねるように、メロディは連なっていく。私は目を開けた。これは夢だ。一瞬でわかる。
そこは、私が小さな頃住んでた家だった。兄もまだ大学生で、私は多分中学生だ。兄がギターを弾いている。
懐かしい、いつぶりだろうか、兄のギターを聴くのは。きっとちょうどこの頃から兄の演奏は聴けてない。そう考えると、7年くらいたっているのか。夢の中での兄はとても穏やかな顔でギターをぽろんぽろんと鳴らしていく。今みると、そんなに上手ではなかったんだな。心の中でほくそえむ。
私の足は、勝手に階段を上がって、一番奥の部屋へと歩く。父の部屋だ。ドアをペタペタと触る。

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こわい

2013.08.08(Thu)

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なにがこわいのかわからないままの夜の本当の理由はとてもくだらない人との関係にあって、くだらないと思いたいのに嫉妬と妬みでいっぱいになっている自分にあるのだろう。
人格に問題があるわけではないと思いたい。責任をとりたくないからかかわらないのだ。自分だけ関われない。のがこわい。誰かに引きずり混んでもらいたい。そんなことを思う自分が嫌いで、誰かに縋りたい。面倒な人間だから、ごめん。と言っても離れられるのがこわい。無意味なことを考えて涙を流すのはなぜなのだろうか。それなら最初から関わらなければいいのに。一つがダメだと、全てを諦めたくなるのが僕の家系の悪い癖だ。今は居なくなりたくてたまらない。自分でいる責任を投げ出したくてしかたがない。

自分の役割をなくせば、僕の責任なんて消えてなくなるのに。

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